とべ動物園アフリカゾウ家族の軌跡みなしごゾウ家族の絆人間との絆の物語
アフリカゾウ家族の物語を知っていただき、そして、多くの皆様に心を寄せていただきたいと思います。
 <ストーリー>
01) 今、私たちができることは・・・
02) 強い絆で結ばれたゾウの社会(アフリカ)
03) 絶望を与えたのも人間 そして希望を与えたのも人間
04) 動物園でやっと生まれた命 しかし・・・
05) 媛ちゃんの試練
06) 飼育員さんとリカの媛ちゃんへの思い
07) リカが本当のお母さんに
08) 媛ちゃんがお姉ちゃんに
09) 本当のゾウ社会 それは家族
10) ゾウと人間の絆
11) アフリカゾウの家族
12)     〃
13) 夢のアフリカゾウ舎
14) アフリカゾウの現状と未来の子供たちのために

今、私たちができることは・・・



親のいない みなし子だったアフとリカ 悲しい生い立ちのリカは自分で子供を育てることができませんでした。
母親に見捨てられた媛ちゃん 動物園で産まれたあなたの小さな命は、飼育員さんの深い愛情によって守られ、命をつなぎ、再び本当の母親の元へ返されました。
長男・砥夢くん、次女・砥愛ちゃんも生まれ、みなし子だった子ゾウは家族をつくり暮らしています。 日本では、とべ動物園だけでしか見ることのできないアフリカゾウの家族です。

心に深い傷をもったあなたたちの悲しげな瞳は、人間の手によって優しいキラキラと輝く瞳に変わったのです。
動物を傷つけるのも人間ですが、その傷を癒すことができるのも人間です。
この家族の絆を、人間とゾウの絆を守り続けることができるのも、私たち人間です。

この家族のために、今私たちができることは・・・



強い絆で結ばれたゾウの社会

ゾウは本来、雌を中心とした家族単位の母系集団で生活し、成熟期を迎えた雄ゾウは、群れを離れ一人で行動します。
けがをした群れの一員を助けたり、群れに赤ちゃんが産まれると、母親 姉 祖母 おばといった血縁のゾウが面倒をみて、子供を集団で守り育てます。

家族の絆を大切にし、とても賢い動物であるゾウ、私たち日本人にとても愛されているゾウは、棲息地の減少、象牙の密漁や害獣として人間に殺され、絶滅の危機にさらされているのです。


『アフリカ 野生ゾウの群れ』 写真提供 : 内山 晟 氏
 『アフリカ ゾウの孤児院』 写真提供 : 築地 美津子 氏
『親を殺されたり、親とはぐれたみなし子ゾウを保護する施設』 写真提供 : 鈴木 裕 氏



絶望を与えたのも人間 そして希望を与えたのも人間

アフリカには、人間によって親や家族を殺されたみなし子ゾウを保護する施設があります。
ここのみなし子たちにとって、人間は敵でもあり、また生きる希望を与えてくれる存在でもあるのです。

アフ1歳 リカ1歳半のとき、アフリカの孤児院から、とべ動物園にやって来ました。もしかしたら、人間によって、目の前で親・家族を殺された子たちかもしれません。
動物にも感情があるはずです。
傷ついた心の傷を癒してやるために、飼育員さんたちは精一杯の愛情を注ぎました。

やがて、2頭は目の輝きを取り戻したのです。


 1988年9月16日 アフ1歳・リカ1歳半  2011年



動物園でやっと産まれた新しい命 しかし・・・

リカは過去に2度妊娠しましたが、1頭目は産まれて間もなくその命はつき、2頭目は産まれてくることなく流産でした。

2006年11月9日、3頭目の赤ちゃんが、やっと元気に産まれました。
しかし、リカはおっぱいを飲ませようとしないばかりか、赤ちゃんを持ち上げて落としてしまいました。
子育てのしかたを知らないリカは、赤ちゃんとの接し方がわからなかったのです。なぜなら、リカも母親を知らないみなし子だったからです。

飼育員さんたちは、動物園で生まれたこの小さな命を守るため、リカの代わりにお母さんになることにしました。

 
「リカ、おまえの子供なんだよ。赤ちゃんを受け入れておくれ。」
 飼育員さんの祈りも届かず、媛ちゃんはひとりぼっちに・・
 お母さんのおっぱいを飲むことができなかった媛ちゃん。  お母さんのお乳が恋しいのか、柱の金具をチュウチュウ吸っていた媛ちゃん。



媛ちゃんの試練

母親と一緒に暮らす赤ちゃんゾウは、鼻の上手な使い方、群れの暮らしに必要なきびしい躾など、お母さんからいろいろなことを教わりながら一人前のゾウに育っていきます。
しかし、媛ちゃんは鼻でリンゴをつかんで口に運ぶことさえできませんでした。
お母さんが傍にいないことの寂しさだけではなく、ゾウとして生きていくために必要なことが分からなかったのです。

「母親が一緒にいないとこんなにも違うのか!」 飼育員さんと媛ちゃんの、二人五脚の生活が始まりました。

   
「媛、ひとりにはさせないよ。傍に居てあげるから、ゆっくりおやすみ。」  ひとりぼっちになると寂しくて眠ることもできない媛ちゃんに、飼育員さんは1年以上もゾウ舎に泊り込んで寄り添いました。
「このまま人間の中で育てるわけにはいかない。媛おまえはゾウさんなんだよ。早くママと一緒に暮らせるようになろうね。」
 写真提供 : 内山 晟 氏


飼育員さんとリカの媛ちゃんへの思い

お母さんが傍にいるだけで、すべてがうまくいくのに・・・。お腹いっぱいおっぱいを飲んで、寒い日にはお母さんが温めてくれて、ごはんの食べ方も水浴びも、自然とできるようになるのに・・・。
飼育員さんは苦悩します。

リカも苦しみます。媛ちゃんが目の届く範囲にいないと、不安がるリカ。媛ちゃんのことが気になってしかたがないのに、どう扱っていいのかわからない。
その苦しみが飼育員さんには、痛いほどわかりました。

ふたりを親子として一緒に暮らせるようにしてやりたい。

   
飼育員さんの手作りガウンを着た媛ちゃん。
飼育員さんの思い  リカの思い


リカが本当のお母さんに

飼育員さんの深い愛情によって成長していく媛ちゃんの姿を間近で見ながら、リカは徐々に母性を育んでいきました。
そして、媛ちゃんとの距離も徐々に縮まっていったのです。

2009年3月17日 第2子砥夢くんが生まれました。砥夢君はリカによって育てられました。
リカは本当の意味でのゾウのお母さんになれたのです。

最初からリカに育てられた砥夢くんは、鼻の使い方も上手、甘えるのもとっても上手です。


 


媛ちゃんがお姉ちゃんに

砥夢くんと遊びながらゾウの社会性を学び、ゾウどうしで過ごすことで、少しずつ心を満たしていく媛ちゃん。

   


本当のゾウの社会 それは家族

媛ちゃん、もうひとりぼっちじゃないね。
お父さんもお母さんも弟くんも、みんな一緒だね。
親が子を思う気持ち、子が親を慕う気持ち、家族の絆つながりは動物たちも人間と同じなのです。


さく越しにアフお父さんにあまえる親子


ゾウと人間の絆

ゾウと人間の絆。母親 リカは飼育員さんを信頼し、子供 媛は飼育員さんを信じ慕い、そして飼育員さんはゾウ親子の幸せだけを願っています。






ずっと家族

お母さんが傍にいない寂しさと不安でいっぱいだった媛ちゃん。
ゾウにとって致命傷となる足の怪我や熱中症による障害の可能性、2メートル下のモートに落ちたこともありました。

人工哺育の子ゾウが無事に育つことは非常に難しいとされる中、命に関わるような危機を何度も乗り越えた媛ちゃんは、奇跡の子と言われています。

 
媛ちゃん
少しずつゾウらしくなっていく媛ちゃん。あなたの嬉しそうな優しい笑顔は、私たちを幸せな気持ちにしてくれます。
媛ちゃんと砥夢くん
砥夢くんの元気いっぱいのやんちゃぶりは、見ていてほのぼのとした気持ちにしてくれました。



砥夢くんの旅立ち
2012年11月26日、3歳8ヶ月の砥夢くんは、アフリカゾウの命をつないでいくため、ひとり旅立ちました。

砥夢くん
砥夢は強い男の子。 離れていてもずっと家族だよ



新しい家族
2013年6月1日、リカは第3子となる女の子を無事に出産しました。
砥部の地から多くの愛を届けることができますように、そして砥部で生まれたこの子がいつまでも愛されますようにと願いを込めて、砥部と愛媛から一文字ずつとって、砥愛(とあ)と名づけられました。

 
砥愛ちゃん
愛らしく、とてもおてんばな砥愛ちゃん
アフとリカ
みなし子だったあなたたちふたりがつくった家族です。この先も、ずっと幸せに・・・




アフお父さんが天国に・・・

しかし、親子の幸せな時間は、そう長くは続きませんでした。
アフお父さんは、2016年4月14日、不慮の事故によって、29歳という若さで天国に旅立ちました。

 

 アフくん ありがとう 天国で安らかに・・・
 家族のことをずっと見守っていてください。

とべ動物園で家族と一緒に暮らせたアフは幸せでした。
なによりも家族を愛し、そして、家族からたくさんの愛をもらった、アフの優しい穏やかな瞳を私たちは忘れません。
アフの命は、必ず、媛、砥夢、砥愛がつないでくれることでしょう。




夢のアフリカゾウ舎

自然な形の家族としてアフリカゾウが暮らしているのは、日本では、とべ動物園だけなのです。
しかし、この先家族が増えたとしても、現状では、一緒に暮らすことできない状況にあります。
そして、媛ちゃんもそろそろ子供を産める年齢になります。できることなら、リカお母さんの傍で赤ちゃんを産んで欲しい。
それが、本来のアフリカゾウ家族の姿だからです。

動物園にいる動物は、人間の力を借りてしか、幸せに生きられる道はありません。

このアフリカゾウの家族が少しでも幸せに暮らせるよう、その環境を整えてあげることが、私たちにできる唯一のことかもしれません。


『外国の動物園』 写真提供 : 田井 基文 氏


アフリカゾウの現状と未来の子供たちのために

アフリカゾウは、動物園での繁殖が非常に難しいとされています。
このままでは、50年後には、日本の動物園でアフリカゾウの姿を見ることができなくなってしまいます。

動物園の役割は、レクレーションの場 環境教育の場などいろいろありますが、野生動物の保全という動物の未来までも考える取り組みが、重要な役割になってきています。
絶滅の危機にあるアフリカゾウは、棲息地だけではなく、棲息地域以外での地域外保全が必要とされているのです。

動物園にいるアフリカゾウの平均寿命は40〜50年といわれており、全国の動物園では、ゾウの高齢化が進んでいます。
ここ10年間で、動物園で子供が生まれたケースは、とべ動物園の媛ちゃんと砥夢くん、そして砥愛ちゃんだけです。
野生動物の保全という立場からも、そして未来の子供たちがとべ動物園でアフリカゾウに会えるためにも、さらに今後も子孫を残してもらいたいものです。

命の尊さ、命のつながり、家族愛、人間との絆を私たちに教えてくれ、これからも命をつないでいくアフリカゾウ家族は愛媛の貴重な財産です。
この家族の物語を一人でも多くの方々に知って頂き心を寄せて頂けたら、嬉しく思います。

この愛らしいゾウ家族の姿を、この先もずっと見ることができますように・・・
そして、この家族の幸せを心から願っております。



2012年11月26日 3歳8ヶ月の砥夢は、ブリーディングローンのため東京の多摩動物公園に旅立ちました。 繁殖ができるようになるのは10年近く先になりますが、砥夢は多摩の地で家族をつくり、命をつないでくれるものと思います。 砥夢が愛され続け、立派な大人のゾウに成長してくれることを祈っております。





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